「語り部の見た世界」14

 そうして青年は行動を始めました。
 キカイの心臓についての知識を集めるために、キカイリュウといっしょに、せかいに残っているキカイの巣を訪ねてまわりました。
 キカイリュウが眠ってしまっても、青年は寝る間を惜しんで知識を集め続けました。
 その過程で、青年は知ってしまっていました。おしまいのまちから続くこの咳が、どういうものなのかを。この咳は、かつておしまいのまちを滅ぼした、おそろしい病なのだということを。
 咳を一度するたびに、青年の命はじりじりと削れていきました。
 病を治すための技術はもう遥か昔に失われてしまっていました。青年にはもう、あまり時間は残されてはいませんでした。
 青年は、焦っていました。
 読めるものは全て読み、行ける場所には全て行きました。どんなに危険な場所であっても関係ありません。
 そうして、もう一度おしまいのまちを訪れた時、青年は確証を得ました。
 キカイの心臓にはココロの領域が存在する。
 ニンゲンの心をその領域に移し替えることもできると。
 同時に青年は気付いてしまいました。
 キカイはココロの領域を認識することができない。
 だから、たとえ自分がキカイリュウのココロの領域にいったとしても、キカイリュウは決してそのことに気付くことはできないのだと。
 それでもいいと青年は思いました。げほげほと咳きこみながら、思いました。
 キカイリュウといっしょであれるのなら、もうなんだっていい。
 そう、思いました。


[2016年 03月 18日]

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