「語り部の見た世界」13

 それは長い長い旅でした。
 日が昇り、日が沈むごとに、キカイリュウの眠る時間はますます長くなっていました。
 それに比例するように、おしまいのまちから続く青年の咳は日に日にひどくなっていきました。
 青年は両方の解決法を必死に探しましたが、手掛かりすら見つけることが出来ずにいました。
 眠っているキカイリュウを置いて辺りを見て回っている時、青年は岩山を見つけました。その麓には大きな箱のような建物がありました。
 青年はここを覚えていました。青年がまだ少年であった頃に、彼はここに来たことがありました。
 記憶の中のこの場所には、キカイがまるで虫のように行列を作って入っていっていましたが、今ではもうひとつもキカイはいませんでした。
 以前に青年がここに来た後に、一体何があったのかは誰にもわかりません。
 だけど今の青年には好都合でした。
 青年は箱のような建物の中へと、吸い込まれるように入っていきました。
 建物の中では、装置がまだごんとんと音を立てて動いていました。装置から繋がる等間隔に設置された灯りによって、建物の中は照らされていて、青年はその一番奥へと簡単に辿りつくことができました。
 建物の一番奥には記憶の通り、無数の装置に繋がれたひとつの箱がありました。
 箱の中にはひとりのこどもが入っていました。
 こどもの前に、青年はとても古い手記を見つけました。
 その手記は、今の青年には読むことができる字で書かれていました。
 もう治ることのない病気。
 二度と目覚めることのないこども。
 ならばせめて、心だけでも自由にしてあげたい。
 心だけを、他の媒体に移し替える研究。
 ニンゲンの作りだしてきた媒体では、何を使っても成功しなかった。
 最後にすがるような気持ちで使ったのは、壊れてしまったキカイの心臓。
 ニンゲンが作ったものではない、原理の分からない「箱」の模造品。
 壊れてしまった理由すらも解明されていないキカイの心臓。
 こどもの心を入れると、壊れていたはずのキカイの心臓は動きだした。
 心臓は与えた刺激に対して一定の反応を返した。
 こどもはキカイの心臓を完全に掌握していた。
 こどもの心は確かにキカイの心臓の中に入っていた。
 本物の「箱」の中には世界が詰まっているという。
 ならば模造品の心臓にももしかすると。
 こどもはキカイの心臓の中で、生きている。
 青年は手記から顔を上げました。
 青年の目の前の、こどもの入っている箱は鈍く光を放っていました。
「きみはそこにいるんだね?」
 青年がそう尋ねると、箱の中の光はとくんと波打ちました。
「きみは、そこで、生きているんだね?」
 答えるように、箱の中の光が細かく点滅しました。
 青年にはそれがまるで、こどもが笑っているように見えました。
 こどもに繋がれたその装置は、明らかに意思を持っていました。
 その時、青年は名案を思いついてしまいました。
 それは、青年がもう、とてもとても疲れていたからかもしれません。
 青年は科学者のことを思い出していました。
 キカイの心臓には、決して認識できない領域があるということを。
 その領域にはココロとでも呼ぶべきものが存在しているという話を。
 このこどもはきっとそこに行ってしまったのでしょう。
 青年は名案を思いついてしまいました。
 ニンゲンではきみと、ずっといっしょにありたいのなら、
 自分の心も、キカイになってしまえばいいのだと。


[2016年 03月 18日]

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