[2016年 02月 19日]
夜はたくさん訪れた。その度にわたしは眠って、きみも眠った。
あるキカイの山に近付いたとき、また夜が訪れて、わたしたちは眠ることにした。
きみは地面にいろいろな荷物を置いた。地面に置かれたカンテラは弱々しく瞬いていた。
「ねぇ、きみのなかにはいってもいい?」
わたしがこたえる前に、きみはたくさんの腹の牙を足場にして、するりとわたしの腹の中に入り込んでいた。
「「いきる」とはなんなのだろうね」ときみはきいた。
「うごきつづけることだよ」とわたしはこたえた。
わたしはかつてきみにきいたことをきみにおしえた。
「そうだね、だけど、」
きみは続けて何かをいっていたようだったけれど、感覚機構が機能停止を要求していて、聴覚に届くのは雑音だらけでわたしにはよくきこえなかった。
一瞬だったのか、それともたくさんの時間だったのか、わたしには分からなかったけれど、そんな時間の後、きみはわたしの中で丸まっていた。わたしはきみが眠ろうとしているのだなと理解した。
「だとしたらぼくは――、いきていたくはないよ」
きみが最後に何といったのか、それを理解することがないまま、わたしの意識は回路の奥に沈んでいった。
朝になって、わたしは目覚めた。地面に転がったカンテラは消えていた。霧は深くたちこめていて、きみはまだ腹の中にいた。
「いこう」とわたしがいった。
「いこう」ときみもいった。
[2016年 02月 19日]