プロローグ

 有史。それは人の営みが記録され始めた時代。人が言葉を得た時代。人が文字を得た時代。人が武器を得た時代。人が世界に抗った時代。
 これより語るのは、始まりの物語。人の世の始まりにして、神の世の終わりの物語。土に埋もれ、森に覆われ、次の逸脱者によって見出されることを待った物語。決して人の世にては全てを語られることのない物語。人をおもい、国をおもった、賢王の物語。友をおもい、臣下をおもった、愚王の物語。重なる彼らを見つめ続けた、かの「箱」の物語。

 「箱」よ。回帰を望む大いなる「箱竜」よ。永劫の記録の海に微睡む「箱の中の胎児」よ。願わくば、彼らに安らなる眠りを与えたまえ。
 今、再び、神の世が終わりを迎え、人の世が始まるその時まで。


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