お題:最後の人類 #深夜の真剣文字書き60分一本勝負

「ドラゴンの約束事」

 決して果たせない約束を、きみとした。
 きみがここを旅立って、どれくらいの月日が流れただろう。数える人も数える竜もいなくなってしまってもう随分と経つ。
 きみは最後の人類だった。
 食料資源の枯渇、大気の汚染、人類の生存に適した新たな星の発見。人類はこの星を見限ることを決定した。
 翼を持ち、宇宙を飛べるものは皆、それに続いていった。翼を持たないものも人類によって翼を与えられ、この星を去っていった。
 わたしが彼らと共に旅立たなかったのは、わたしが不適合だったかららしい。次々に移住していく仲間たちを見て、少し寂しく思ったことを覚えている。
 そんなわたしに、きみは最後まで寄り添ってくれた。
 誰もいなくなった都市の上をきみを乗せて悠々と飛びまわった。ガラスを何度も蹴破ってしまったし、風圧で偉い人の銅像が吹き飛ばしてしまったこともある。だけどそんなわたしたちを誰も咎めやしない。ふたりだけの世界。
 時には照りつける日差しから翼を広げてきみを守り、ブリザードが吹けば洞窟の奥で一緒に凍えた。
 最後の日。きみが旅立っていったあの日、きみはわたしに約束した。
 必ず帰ってくる。それまでここで待っていてほしいと。
 そう言って狭苦しい冷凍ポッドに入ったきみを、わたしは止められなかった。
 きみがここを旅立って、どれくらいの月日が流れただろう。数える人も数える竜もいなくなってしまってもう随分と経つ。
 きみが帰ってくるその日まで、わたしはきみの墓を守り続ける。



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