この星の女子中学生は卵から生まれる。
そんな馬鹿げた話を聞いたのは、その星に向かう定期便の中だった。嘘じゃない本当だ、と言いつのる商売相手を最初私は笑い飛ばしたのだが、窓の外に現れた景色にすぐにその認識は改められた。
無重力の中、宇宙服もなしにセーラー服の女子中学生が飛んでいた。
襟も上着も膝丈のスカートも、真っ黒。肩で切り揃えられた黒髪。どこにでもいそうなのに、何故か浮世離れした見た目。ふとこちらに視線を向け、ふわりと微笑むその姿には、確かに夜の支配者の風格があった。
その星に着いた後、商談が終わった私は「女子中学生」の卵があるという場所に案内された。なんでも「女子中学生」が人里の近くに卵を作ることは珍しく、一時的な観光スポットとなっているらしい。
私が「女子中学生」の営巣地に連れていかれたのは真夜中だった。岩場に程近い海辺の砂浜。昼間には群をなしていた観光客たちは既に引き上げ、ざざん、ざざん、と波の音だけが響いている。
本当は彼女たちを保護するために夜中は近づいてはいけない決まりらしい。「今回だけだぞ」と頼んでもいないのに商談相手は自慢げだ。
白い衛星が中天に達した頃、彼女たちは現れた。
彼女たちは十数人の群れで行動していた。星々の間を縫うように飛来し、緩やかに着地する。傷一つないローファーが砂浜に沈む。猛スピードで飛んできただろうに、彼女たちの服装には全く乱れはなかった。
「女子中学生」は砂浜にしゃがみこみ、そのまま動かなくなった。焦れた私が何をしているのかと身を乗り出した時、それこそ、あっ、と言う間に卵の殻が彼女たちの全身を覆い隠した。
あれが「女子中学生」の卵だ。商談相手は得意そうに言う。
それからしばらく私たちは砂浜に立つ巨大な卵を見つめ続けた。夜の海には命の気配はなく、ざざん、ざざん、と波の音だけが響いている。そうしてもうすぐ夜明けという頃、変化は訪れた。
ぱき、とひびの入る音が響いた。その音を皮切りに、他の卵からもひび割れる音が響き始める。ひびは広がり、穴となり、遂にばらばらと零れ落ちる卵の殻の中から、セーラー服を着た「女子中学生」が姿を現した。どうやらあの服も含めて、彼女たちの一部らしい。私はそんなことをぼんやりと考えていた。
「女子中学生」たちは次々と殻を破って飛び出していったが、最後の一つだけなかなか生まれない。他の「女子中学生」たちは既に飛び去っていった。
私たちは残された巨大な卵におそるおそる歩み寄った。
どれだけ近付いても、触れて、軽く叩いてみても、卵は一向に割れる気配はなかった。
一人だけ遅い孵化の時を待っているのか。それとも卵の中でとろけてしまったのか。
ひんやりとした卵の表面に耳をつける。殻の向こうからはごうごうと水底の音がした。