お題:いぬ・ねこ・スチームパンク・再会・幼馴染・少年・終末系・ガイノイド



「おい、世界がやばいぞ!」廃墟の窓を勢いよく覗きこんで少年が言う。「は?誰?」廃材の上で寛いでいた黒猫は思わず素で答えた。つまり人間語で。「あ、やっべ」「そうだ!やばいんだ、世界が!」黒猫はみゃあおと鳴こうとして止めた。そして苦言を呈する。「いや驚けよ少年。猫が喋ってるんだぞ」

少年は小さな窓から無理やり侵入してきた。「そんなの別に驚くようなことじゃないだろ」「そうなのか?」「そうだ」「そうか、普通の猫も喋るようになったのか。最近外には出てないから外の常識には疎いんだ。すまない」「いや猫は普通は喋らないけどさ」「……うん?」黒猫は理解できずに停止する。

「だってお前は普通の猫じゃないだろ」「それはそうだが」「普通の猫じゃないんだから喋るだろ」「……それもそうだが」黒猫はぐしぐしと頭をかくとおもむろに二本足で立ち上がった。「…まあ座れ。茶ぐらいは出そう」小さな椅子を引いて少年に勧める。少年が座ると猫サイズの椅子はミシミシ鳴った。

互いに茶を飲んで一息ついたところで、黒猫が切り出した。「で、君は誰だ?」「ひどい!俺の事忘れちまったのかよ!」「猫違いじゃないか?生憎君のような人間には覚えが無い」「そんなはずない!俺がお前の事を見間違えるもんか!」少年の剣幕で椅子が軋む。「ふむ……」黒猫は前足を組んで考える。

「昔近所に住んでただろ!よく一緒に遊んだじゃないか!」「昔……うーむ」「ほら、俺がこんなにちっちゃい時だよ!」少年はちょうど黒猫の背丈ぐらいを示す。「その背丈だと君は赤ん坊の時分じゃないか。すまないが私は人間の赤ん坊は見分けがつかない。だから君のことを覚えていないのだろう」

「そんな!いつも不思議ガジェットで助けてくれたじゃないか!」「不思議ガジェット?」「空飛んでびゅーんってなるやつとか急に姿が見えなくなるやつとか!」「ああ、私の兵装のことか。滅多に人には見せないようにしているが、そうかこれを知っているということは君は本当に私の知り合いなんだな」

「知り合いどころじゃないぞ!親友だ!」「そうか。そうだったのか。忘れていてすまなかった」少年は満面の笑みで親指を立て、黒猫は納得した。「久しぶりだなあ親友!」「うむ、本当に久しぶりだ親友」二人は抱きついて笑いあう。「ところで親友。君は何か用があってここに来たのではないのか?」

「そうだった!世界がやばいんだよ!」「やばいとはどうやばいんだ?」「聞いて驚くなよ……あのワウワンワン帝国が遂に動き出したんだ!」「なんだその投げやりなネーミングは。知らないぞ」「そんなことも忘れちゃったのか。ワウワンワン帝国だよ!喋るハスキー犬が首魁の!お前のライバルだろ?」

「そんなライバルが…?覚えていない…私は知らぬうちに記憶喪失に…?」「そうかもな…この一件が終わったら一緒に病院に行こうな。大丈夫きっとすぐに思い出すさ!」「うむ…」黒猫は肩を落とす。「それでそのワウワンワン帝国は何をしたんだ」「とてもひどいことさ。このままじゃ世界は終わる!」

「世界が終わるとはまた物騒な話だな」「そうだよ物騒な奴らなんだ!あいつら装甲ガイノイドを世界中に放ったんだ!」「ガイノイド?」「うーんとほら、パイオツがな、大きかったり小さかったりする可愛いチャンネーのロボット?だよ!」「君は本当に少年か?実は実年齢もう少し上じゃないのか」

「ガイノイドたちはある日突然現れた!最初は一般家庭を、公共機関を、そして政府機関を次々と占拠していったんだ!充電のためのコンセント占拠によって!この世界で使えるコンセント穴はもう残り少ない!つまりこれはやばいぞ!」「ふむ許せないな」興奮した少年の下で黒猫愛用の椅子が壊れた。

「しかもこの世界の男という男はもうガイノイドにメロメロだ!何故なら可愛いから!」「悲しい男の性だな」黒猫は前足で顔を覆った。「俺はこの状況をなんとかしたい!どうやってなんとかするかは特に考えていないがなんとかしなきゃいけない!手を貸してくれ親友!」「ふむ」黒猫は少年を見る。

少年はまっすぐ黒猫を見返した。黒猫は頷いた。「うむ分かった」黒猫は立ち上がりベストを羽織る。ベルトを締め、廃屋の奥に隠してあった諸々の兵装を次々に身につけていく。最後に古風なゴーグルをかけて、少年の前に立った。「君の頼みとあらば仕方が無い。手を貸そう親友」

二人は廃屋を出る。久々に見る青空が黒猫の目にしみた。「敵は強大だ。でも俺たちは絶対に勝ってみせる!世界を救うために!」「うむ」聳え立つ街並を指さして、少年は高らかに宣言する。「いくぞ!猫型ロボット、ミャミえもん!」

「……おいやっぱり猫違いじゃないか」


完!


即興ショートストーリーまとめ
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