A.D.2403 郊外にて

 数え切れないほどの轟音と衝撃と熱の後、彼は暗闇の中にいた。彼はまず、星がないと思った。自分から光る星も、誰かから光を受けて光る星もない。真っ暗闇だった。
 仰向けにひっくり返っていた体を起こそうとすると、頭が何かにぶつかった。
「いたいー!」
 ずっとずっと彼がいた空間はどうやら随分と狭くなってしまったらしく、彼の声はいつにも増してぐわんぐわんと響いた。彼はごろごろと転がって、何か見えるものはないかと探し回った。
「あっ」
 細く覗いた光に気づいて彼は動きを止めた。近づいてよくよく見てみると、それは亀裂のようだった。彼は仰向けのまま亀裂に足を置いて、がんがんと何度も蹴り上げた。何度目かの試みの末、戸が軋み、もう一度力を込めて蹴り上げると、戸はどこかへと吹っ飛んだ。
「わあ」
 彼は起き上がった。空気を吸い込んだ。風が彼の顔に当たった。光が多すぎて目がちかちかした。明暗以外の色がそこら中に広がっていた。
「星だ!」
 彼は船の上から地面へと飛び降りた。そして無事着地した数秒後突然何かに足を取られたかのように、彼はバランスを崩して転倒した。
「ぐにゃぐにゃだねえ」
 彼の足下には白濁した液体があった。液体は、船を中心にして広がるクレーターの底に溜まって、小さな池のようになっていた。その出所をたどると彼の乗っていた船から白い液体がとめどなく溢れ出ていた。
「なんてこと、燃料もれだー」
 ぐにゃぐにゃの手足を駆使して、なんとか立ち上がる。頭上を小さな鳥が飛んでいった。緑色の葉が見えた。茶色の幹が見えた。ちちちと遠くで鳴き声が聞こえた。
「動いてるねえ。生きているねえ」
 生き物に手を伸ばして近づこうとする。けれども生き物たちはとても素早くて、ぐにゃぐにゃした視界ではとても捉えきれなかった。彼は木々の向こう側に、聞いたことのないような形のものを見つけた。 
「やあ、あれはなんだろう。もしかして人間かな?」
 彼は船の上によじ登ってそれに目を凝らした。それはどうやら、船のように固そうな素材でできた大きな建物のようだった。
「おおい、おおい! おれとおはなししようよ!」
 彼は白い液体燃料の中をじゃぶじゃぶと進んで、人里へと駆け出した。



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