「語り部の見た世界」12

 そこには、せかいのおしまいがありました。
 空を突き刺そうとしているのか、鋭く尖った機械の皮膚の山が、冬の森のように砂だらけの石の上に棒立ちになっていました。
 それの周りには荒野しかありませんでした。
 ずっとずっと昔には、その場所から機械もニンゲンも生まれていたと古い記録にあったけれど、今ではそこには機械もニンゲンもいませんでした。
 ここがせかいのはじまりで、ここがせかいのおしまいでした。
 黒く濁った空気を吸い込んで、青年は数度咳をしました。
「せかいにかんげいされていないんだね」
 このせかいはニンゲンのためにはないのだと、青年は薄々気付いていました。
「「森」はニンゲンをゆるさないね」
 「森」ではニンゲンは生きられません。まちを作っても、全てを飲み込んでしまうのです。
「キカイはニンゲンをゆるさないね」
 ニンゲンに作られたはずのキカイは、ニンゲンを食べ続けるでしょう。それはもう決まったことで、変わることはないのです。誰が決めたのかも知らないのに。
「たくさんみてきた」
「ニンゲンのいていいばしょはどこにもなかったね」
 比較的うまくやれていたはずのあのまちでさえ、ニンゲンはニンゲンを滅ぼさずにはいられませんでした。神様を、世界を信じていても、世界に立ち向かおうとしても、待っていたのは破滅でした。
「ニンゲンはこのせかいに生きていていいのかな」
 今まで出会ってきたたくさんのニンゲンの顔を思い出しました。
「ぼくはほんとうに生きているのかな」
「いきているよ」
 キカイリュウはまっすぐに青年を見ました。
「わたしもきみも、いきている」
 キカイリュウははっきりと、そう言い切りました。
 青年は少しだけ、救われた気分になりました。


[2016年 03月 16日]

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