2.キカイリュウの見た世界 「あるニンゲンのまちにて」


 旅をしているうちに、わたしたちはひとつのまちにたどり着いた。
 そのまちにニンゲンはひとりもいなかった。だけど、まだしっかりと形の残る家が並んでいて、中央に走る大きな道には石畳が敷き詰められていた。
 その内のひとつの家の前で、きみは立ち止まった。
 ずっときみは喋らなかった。きみの顔を見ると、きみの目からは、どんどん水が流れ落ちていた。
 わたしはきみに何が起こっているのか理解できず、目から水を流し続けるきみに「これはなに?」と尋ねた。
「なみだだよ」と目をこすりながらきみは答えた。
「いたいときや、さみしいときになみだがでるんだ」
 わたしはきみの真似をして、頭部の先端できみのなみだをぬぐった。
「いたい? さみしい?」
「ううん、こわい」
 きみはわたしの頭部にそっと触れながら、首を横に振った。
「こわくてこわくてしかたがないんだ」
 きみはわたしの腕を強く掴んだまま、ずっとずっと黙っていた。わたしはわたしの中の観測できない場所がぎいぎいと軋んでいる気がした。きみはやがて、小さな声で、「これが死だよ」と言った。
「これが死ぬってことなんだ」と言った。
 きみの小さなその言葉は、わたしの思考の領域外にずしんと重く落ちこんでいった。


[2016年 02月 09日]

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