2.キカイリュウの見た世界 「ふたつめの日」


 朝が来て、わたしは目覚めた。
 考えてみると、わたしはわたしが生み出されたキカイの巣以外で眠ったのは初めてだった。キカイはキカイの巣で眠るものだったから。
「おはよう」ときみが言った。
「おはよう」とわたしも言った。
 きみを腹の中に入れて、わたしはまた歩き始めた。
 きみが「あかい」と言ったごつごつした山肌を、できるだけ平坦な道を選んで歩いていくと、急に道が途切れて崖の上に出た。遮るものの無い広く開けた空を、きみは「あおい」と言った。わたしは首をかしげた。
 崖の下をのぞきこむと、小さなものがたくさんいた。上から降ってきた光がたくさんの小さなものに当たって反射していた。それら一つ一つ全てがみんな、わたしと同じように生まれたキカイだった。
「かれらはどこにいくの?」ときみはたずねた。
「あれにいく」
 あかい荒野の真ん中に、荒野にある様々なものの何にも似ていない四角の箱があった。箱の周りには、箱を取り囲むように尖った塔が複数建っていて、そのうちのいくつかからは煙が吐き出されていた。
 わたしに内蔵された地図にはその地点の情報は入っていなかったが、それが何であるのかは判断できた。
「あれはなに?」
「キカイの巣」
 キカイの巣、ときみは繰り返した。キカイの巣にはすぐには数えられないぐらいたくさんのキカイが入っていった。箱の中でごうごうと内部機構が動く音が、遠く離れたこの崖の上にも届いていた。わたしは頭部についた小さな感覚装置を細かく動かして、その音を聞いた。わたしがいた場所と同じような音だった。
 きみは、キカイとわたしを何度か見比べて、「あそこにもどりたい?」と尋ねた。
「ううん」
 わたしは首をきみの方にかたむけた。
「きみといっしょにいるほうがいい」 


[2016年 02月 05日]

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