金属の枷によって繋がれた木製の床を踏みしめて、少年は飛空艇の中を歩く。旅客に開放されたラウンジは外の景色が楽しめるよう前方がガラス張りになっており、いつも暇を持て余した旅客で賑わっている。
「それにしても遠くに来たものだなー。なあ、V?」
「そうだね、チビ」
 どこからともなく響いた子供のような声に、少年は平坦ながらも冷たさは感じさせない声色で返す。
 少年のシャツの釦と釦の隙間から、ぷはあと息を吐きながら小さな竜が顔を出した。
「出港してからそれなりに経つけどよ、体の具合はどうだ? 変なところがあったらすぐに言うんだぞ? ……っつってもここじゃあ直してくれるやつもいないけどな」
「大丈夫。元気」
 言葉少なに答えると、Vは窓際に並べられた椅子に腰かけ、遠い地面を見つめた。と、その時。
「なんだテメエその目は! ああ?」
「ひぃ! そんな、俺はただ座ってただけで」
「なんだと、今さっき俺を生意気な目で見やがったじゃねえか」
「そ、そんな、言いがかりです!」
 Vのすぐ近くで始まった口論。その様子をVは最初ぼんやりと見つめていたが、先に声を荒げた男が手を上げようとした瞬間に、二人の間に割って入った。
「ああ? なんだてめぇ?」
 振り下ろされた拳を片腕で受け止めたV。ぼんやりとした眼差しのまま男を見上げると、その腹に強烈なボディーブローを叩きこんだ。
「暴力、よくない」
 男は一撃で地に伏せる。シャツの隙間から顔を覗かせたチビが頭を抱えた。
「うあっちゃー。V、やりすぎだって」
「て、てめえこのよくも」
 腹を押さえながら男はよろよろと立ち上がる。そしてVに向かってもう一度拳を振り下ろした。Vはそれを再び片腕で受け止める。すると、
 パキンッ。
「あ」
 肘から先がだらんと地に向かってぶら下がっている。……明らかに接合部が破損していた。
「おわあ、V! 腕が!」
「……どうしよう」
「どうしようったって、オレにもどうしたらいいか……」
 暴れていた男は船員によって拘束され、運ばれていった。残されたのは途方に暮れたVとチビだけ。
「どうしよう」
「うーーーん、どうにかこの船の中に整備のできるやつを探すしか……」
「あらあら大変」
 足元から女性の声がした。
 二人が見下ろすと、そこには毛並のいい真っ白な猫がいた。
「猫」
 Vは首の後ろを掴んで、猫を持ち上げた。表情のないはずの顔に明らかに喜色が滲んでいる。
 持ち上げられた猫は、びろーんと胴体を重力に伸ばされながら困った声で言う。
「うーん下ろしてね、小さな自動人形さん」
「喋った」
「おい、V! 猫が喋ったぜ! 猫って喋るものだっけか!?」
「あら、竜だって喋るんだもの。猫だって喋ることもあるわ」
「ええー。そういうものかぁ?」
「ええ、そういうものよ」
 猫は可笑しそうにフフフと笑った。
「私はここの責任者。ホワイトとでも呼んでちょうだいね」
「ホワイト」
 Vは繰り返す。ホワイトは二人に背を向けて、それから振り返った。
「着いておいでなさい。その腕、直してあげるわ」
「……本当かあ? 何か裏があるんじゃないだろうな?」
「ないわよぅ。裏なんて」
 訝しむチビをかわして、ホワイトは言葉を繋ぐ。
「ただね、ちょっとだけ手伝ってほしいことがあるの」
「手伝ってほしいこと」
 かけられた言葉をVはそのままオウム返しする。そしてそう言いながら首をこてんと傾けた。
「そう。手伝ってほしいこと。……お願いできるかしら?」
 Vは数度瞬きをした後、こくりと頷いた。



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